田中正巳のクリスタリゼーション

故 建 畠 覚 造(彫刻家)

「父と子の季節」 キャンバス・油彩 162×162㎝ 1992年 作品番号2-02 第1回小磯良平大賞展入選作品

 田中正巳さんが和歌山県民文化会館で自選展を開くことなった。
和歌山市は彼の出生地で、いわば里帰り展と言う事になるが、今日の彼の独自な作風をもとにした旺盛な創作活動を江湖に問ううこの企画は、所謂郷愁とは無縁であり、里帰りと言う言葉は適切ではないだろう。
 田中正巳さんと美術との係わりは、むしろ郷里を離れた時点において開始されたといってよい。当初、金沢美大に進んだ彼は、描写的な表現から出発したが、テーマ生を意識するにつれて、自身が求めている画面との違和感はぬぐい切れなかった。
 その後、幾多の苦難を乗り越えながら、その独自の画風を築いて来たが、彼にとって自然とは自分と係わる社会や人間との関係を切り離しては考えられなかった。従ってその様な係わりの根底にある人間の本質を空間に定着するには、どうしても自然の抽象化が求められて来た。
 つまり、自然という対象を峻別する事によって、より人間と社会との絆を確かめようと言う行為につながってゆく作業である。
 田中さんのタブローは、本人も言っている様に、どちらかと言うと具象の片鱗が伺えるが、彼の作品で自然はクリスタライズされて居り、自然と云う対象を峻別する行為の中に、造形プロパーな空間性が、たゆみなく追求されている。
 彼の作品のクリスタリゼーション(結晶作用)の所以である。

(1997年 和歌山県民文化会館個展「父と子の季節」図録より )

※ 建畠覚造先生ののお父様の建畠大夢先生は、和歌山県出身の彫刻家で覚造先生も和歌山には深い係わりを持たれておられました。覚造先生は行動美術協会彫刻部の創立会員であり、行動展の中でご指導をいただいておりましたので、私の和歌山での個展に際しての図録に上記の文を寄せていただきました。 田中正巳

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