赤 津 侃 (美術評論家)
(元 朝日新聞記者)
田中正巳のここ二年間展開してきた「壊れかけた太陽」シリーズは、視線をつかんで放さない。絵画の吸引力を如実に感じさせる新鮮な表現力がある。
和紙にアクリル・墨という技法の広がりが、筆勢やにじみ・ぼかし・重ねと多様な表現を生み出し、異様な迫力と情念をみなぎらせている。
単なる概念を超えた太陽という激しい生命体が、自然や社会の出来事をえぐった万物流転の象徴・結晶として凝集する。
田中には、細部を厳密に見極める眼がある。少しひいて、全体をゆったりと見渡す眼がある。
二つの確かな眼が溶けあって、墨のウエットでドライな厳しい表現のなかに、宇宙の大骨格を取り込み、自然の内包する激しいリズムを浮かび上がらせる。
赤の色面が増大した最近作は、絶対的なるものへの憧憬か、はたまた崩壊の兆しなのだろうか。
( 2003年 朝日アートギャラリー個展DMより)