佃 堅 輔 (美術評論家)



鮮烈な朱赤が、形ならぬ形を激しく主張しながら、一体どこへ向かうのか。どろどろとした赤い溶岩に、あるいは凝固した血の不気味なかたまりにも見える。
黒々とした帯状のものに取り囲まれた不定形のものこそ、画家のいう〈壊れかけた太陽〉なのだ。
人間の信頼関係を描く〈父と子の季節〉のシリーズが十年間続いたが、ある時画家は、人物に太陽を配置した。が、何点目かに描いた太陽の形がグシャグシャになった。その時一瞬それが壊れかけた太陽に見え、絶望感に襲われたという。
この危機意識こそ、地球上の現代人が抱くものなのだ。このイメージは画家にとって執拗にふくらみながら、このシリーズへと駆り立ててゆくのだ。
〈壊れかけた太陽〉は、さらに展開と深化をみせてゆくだろう。
( 2004年7月号 アートクロス雪・月・花Vol.1 掲載 )